2021年10月30日

V/Uヤギアンテナの製作

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構想から2年以上が経過してもなかなか手も回らず完成できなかったV/U用の八木宇田アンテナが日の目を見ることになりました。
今回は、コンテスターであり、最近は衛星通信でもアクティブに運用されているJK1LSE 本田OM(AKCメンバーでもあります)に設計・監修をお願いし、コラボ開発と言うことで比較的短期間でここまで追い込むことができました。
本田OMは、コンテストや移動運用、また衛星通信用として既に開発され自作されたアンテナを使用されていますが、これをベースに、当局が以前より持っていたコンセプト
@ 1mブーム長(ホームセンターで容易に手に入る)
A 穴あけ加工しない
 (加工が下手でエレメントがきれいに並ばないので)
B とにかく軽くする
を実現すべく、ご協力をお願いしダイレクトメールを駆使しながら何とか使えそうで再現性のあるものができました。
ここまででほぼ目途が立ったものは
@ 430MHz 8エレ
A 144Mz 4エレ
です。
移動用として軽く、簡単に組み立てられるもの、また、衛星通信用として開発中の仰角ローテーターでも簡単に回すことができるものとして使用することが可能です。

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まず、@ を実現するブームとしては10mm角x1mのアルミ角パイプを使用しました。
これに、A の穴加工をしないで簡単に取り付ける方法として3Dプリンタを使用してエレメントホルダーを作成しました。

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ホルダーには、ナットがインサートされており、ユリヤネジを使って10mm角パイプの任意の位置で固定することが可能です。角パイプですのでエレメントはきれいに並びます。

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ブームマウント用のホルダーも3Dプリンタを使用してブームの任意の位置で固定できるようにしました。

次は、給電部分です。最初は、シンプルに同軸直結でマッチングが取れるように設計をお願いしましたが、できるにはできるのですが、少々パターンがいびつになり、本田OMの実績のあるガンママッチを使うことにしました。マッチングロッドの固定や、ショートバーをどういう構造にするか悩みましたが、これも3Dプリンタを活用し、それなりに良いものができました。
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最初ショートバーとして10mm角の角棒を使用しましたが、少々大きいので、最終的には5mmx10mmの角棒を使用することにしました。
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ラジエーターエレメントとの接続部分には圧着端子をナットで絞めて、その端を半田付けする構造だったのですが、マッチング用のコンデンサーも含めて取付のバラツキを減らすために、基板を作って、それに半田付けする構造としました。
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このラジエーターもブームの任意の位置にユリヤネジで固定することができます。
マッチング用のコンデンサーには、50V耐圧のチップコンデンサを使用してみました。
最終的にこれでいいのかもう少しテストが必要ですが、50W入力でも特に変化は見られませんでした。

こうして出来上がったのが最初の写真のアンテナです。
B とにかく軽くする
この3つのコンセプトの最後の重量ですが、144 4エレ、430 8エレ共に、ブームマウントホルダを含めて260g程度に収まりました。とても軽量に出来上がったと思います。

とりあえず形はできましたが、所望の性能が得られているのか? とても気になるところです。
利得もそうですし、ビームパターンも気になります。
設計は、MMANAで行われており、144 4エレ、430 8エレの設計性能(利得、FB比、パターン)を下に示します。
MMANA144.jpg   MMANA433.jpg

これらの性能が実現できているかの確認は、測定してみるしかありません。
電波暗室があるわけではないので、一応ルーフバルコニーではありますが、マンションの壁や屋根、隣のマンションの反射などが想定され満足な測定ができるのかわかりませんでしたが、やってみることにしました。
パターンの測定は、当局が製作したPocke TATORを使用してアンテナを回転させますが、10度おきでいいだろうと思ってみたものの、毎回10度ずつ回転させてレベルを測ってという作業はとても大変です。
更に再現性のあるレベル測定が必要ですので、ちょっとした治具(ツール)を作ることにしました。
@ レベル測定
 (AD8307を使いダイナミックレンジ70dBを確保)
A 回転制御
 (Pocke TATORを自動で10度ずつ360度回転させるプログラムを追加)
B 信号源制御
 (10度おきにリグのCWモードで短時間キーON自動制御プログラム追加)
C データの記録
 (マイコンのEEPROMに10度毎に測定したレベルを書き込み制御)
D データの読出
 (UP/DOWNボタンで10度毎のEEPROMのデータを読み出し、LCD表示)
これらを実現することで、360度のパターン測定が自動化されとても重宝しました。
記録したデータをシリアルでPCに掃き出して、エクセルなどでグラフ化すればもっと楽になるのでしょうが、ここまでやっていると何を開発しているのかわからなくなる(とてもできないが本音)ので、10度毎のレベルデータの読みながら手書きで円グラフを作成しました。

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レベル測定のためのAD8307の回路、リグのキーON制御ともに、Pocke TATORのコントローラーの中に仕込みました。

まずマッチングの状況ですが、こんな感じです。nanoVNAで測定しました。SWR計でも帯域内1.5以下に収まっています。
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144MHz 4エレ          430MHz 8エレ

次にパターン図です。

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144MHz 4エレ          430MHz 8エレ

いびつに見えるかもしれませんが、マンションなどの反射の影響なども相当なレベルであると思いますので、それを差し引けばMMANAのシミュレーション結果の傾向はよく出ていると思います。
メインローブの雰囲気とか、サイドローブの出方とか、FB比もしっかりとれています。
角度の正規化を行っていませんので、頭を30〜40度左に傾けてみてください。
実際には、何度も条件を変えて測定して周りの影響の少ない条件が見つかり、その結果を掲載しています。
ここまでのパターン図が掲載されている事例は少ないかと思います。
ちなみに、メーカー製 ダイヤモンド社の144 5エレ、430 10エレを同じ条件で測定したパターン図を下に示します。

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144MHz 5エレ          430MHz 10エレ

次は利得です。
一般的にダイポールと比較されますので、比較用ダイポール(だいぶ以前に作っていた)とレベル比較してみました。また、ダイヤモンド社のカタログ値はわかっていますので、それと比較してみました。

性能比較.jpg

アンテナとダイポールの測定レベルは絶対値ではなく相対レベルとしてみてください。
まず、ダイポールとの比較ですが、144MHzで6dB、430MHzで本機が9dB、D社製が10dBとなっています。
それぞれ、MMANAシミュレーション値、カタログ値に対して約1dB低い結果となっています。
この辺りの違いの要因は、詳細は不明ですが、送受信の測定距離が十分遠方となっていないことなどが考えられるかもしれません。
D社のカタログ値を正としてみてみると、144で同レベル、430で1dBの差となっており、シミュレーション性能が出ていることになります。
FB比はカタログ値が遠慮して記載されているのか、本機の方がシミュレーション値、実測値(パターン図参照)からも良い値となっています。
結果として、利得、FB比、パターン図ともに、当初の期待値を満足している結果が得られたと思います。

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比較測定したアンテナ群

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ダイポールでの測定状況

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パターン図測定状況 
送信側:モービルホイップ 受信側:測定アンテナ

結果として、当初の3つのコンセプトを満足する2種類のアンテナが完成しました。
性能測定用のツールもでき、メーカー製との比較、ダイポールとの比較において、性能の期待値もほぼ満足する測定結果が得られ、再現性のおいても430MHz 8エレは2号機も製作し同様の測定を行って同様の結果がえられ、再現性の確認もできました。

今回は、設計・監修としてJK1LSE 本田OM絶大なる支援をいただき、感謝申し上げます。

追記:
衛星通信用として、144と430をクロスに配置したヤギを見かけます。
今回の2つのヤギをクロスにしたらどうなるか、やってみました。ユリヤネジで簡単に、好きな位置に固定できる構造が幸いして、簡単に組み立て、測定を行うことができました。

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左が144MHz 4エレ、右が430 8エレをそれぞれ垂直にして測定したものです。
ほぼほぼ同様な結果が得られ、クロスにしても使用できることがわかりました。
エレメントの位置を、マジックなどで印をつけておけばばらした状態で保管持ち運びが可能で、現地では印に合わせてエレメントを配置しユリヤネジを締めるだけで簡単に組み立てることができます。
追記に記載したように各バンド単独でも、1本のブームでクロスとして使用することもできます。














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2021年10月22日

Pocke KeyerU

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エレキーを作り始めて10年余り、FRISKサイズのエレキーを実際に頒布を始めて3年余りが過ぎました。

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FRISKキーヤー1stバージョン   頒布品初代FRISKキーヤー

小型であるがゆえに多くの局長さんに使っていただいておりますが、エレキーの使い勝手というか、キータッチのフィーリングは局長さんそれぞれで色んな感覚をお持ちであることも実感しました。
ご要望もいただいたりしたのですが、対応できないまま時間が過ぎてしまいました。
そうした中で、スタートはだいぶ以前のようですが、Arduinoのシールド(オプションボード)としてK3NG OMが開発されたエレキーがあることを知りました。同じAKCのメンバーさんもシールドを頒布されています。
このエレキーは、K3NG OMが開発されたものからどんどん機能が増えてゆき、物凄く多機能なエレキーとして世界中で使用されているようです。
最初は、Arduinoベースと言うことで小型の専用キーヤーのイメージが湧かなかったのであまり興味がなかったのですが、最近ふとしたことから、これをFRISKサイズに入れられないかと思うようになってきました。
初代のFRISKキーヤーは、まず大きさが決まっているので使用できる電池の大きさや、使用する部品(特にマイコン)の大きさが制限されていました。
とりあえず動くではなく、特に電池の持ちは実用的には重要です。
当時はAVRマイコンが持つSleep機能を最大限に活かし、電源を切り忘れても電池の自然消耗に近いレベルでのSleepを実現できました。

FriskPCBJissou.JPG

Arduinoでは色々作って使ってはいたのですが、3Vでの電池駆動の作品は今までありませんでした。
とりあえずK3NGキーヤーのソフトを、Arduino基板ではなくそのマイコンであるATMega328単体に書き込んで使ってみました。
ところが5Vだと何の問題もなく動作するのですが、3Vだと動作しません。
色々悩んでFUSEビットの設定ではないかと、これも色々試したのですがダメでした。
結局Twitterで悩みをつぶやいたところ、普段いじらない(今までいじったこともない)FUSEビットの設定がポイントと教えていただき、それに従ってそのFUSEビットを書き換えたら、3V以下でも問題なく動作するようになりました。
購入したばかりのマイコンだと問題がないのに、何故Arduinoのプログラムを書き込むといじってもいないFUSEビットが変わりだめなのか調べてみました。
結果、なんとArduinoのブートローダーを書き込むと問題のFUSEビットが書き換えられていることがわかりました。
それで、プログラムを書き込んだ後にFUSEビットを再度変更し、動作が問題ないことが確認できたのでこれで大丈夫と思ったのですが、途中の変遷が色々あって、最終的には、動作の安定性を確実にするために、ArduinoIDEで生成されるバイナリーファイルのうち、ブートローダー無しをISPで書き込んで使用することにしました。
次の課題は、Sleep対応へのハードウェアの仕様です。
K3NG キーヤーの機能としてはSleepモードが設定できるようになっています。
ソフト的には、これをONにすればいいのですが、基本回路としてSleepがONになっても、3V時、300μAの無駄な電流が流れる設計になっています。
それは、スピード調整用のVRです。

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直列に1KΩの抵抗を挿入し電圧測定

初代FRISKキーヤーでは、このスピード調整用のVRの電源はマイコンのポートから供給するようにしてSleep時は、VRへの電流が流れないように制御して消費電流を抑えました。
回路的には、同じようにすればよいことはわかっているのですが、膨大なK3NGキーヤーのソースのどこを変えればいいのか? だいぶ苦戦しましたが、何とか作りこむことができ、動作確認の結果、Sleep時の消費電流を10μA以下まで低減することができました。

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直列抵抗10KΩ時

Sleepからの復帰も、長点or短点のパドル操作で即時に復帰します。

次の課題が、昨今のマイコンの入手難です。
最初は小型するために、QFPパッケージで基板を作りました。実験も手持ちのQFPで行いました。
ところが昨今の半導体不足によってQFP品がとても手に入りにくいことがわかりました。
基板はできたのですが、肝心のマイコンが入手できないとなると頒布は不可能になります。
ここで挫折かと思いましたが、DIP品なら少量ずつだと手に入りそうだとわかって、DIP品を基板の裏に貼り付けられないかとやってみたのが写真の試作基板です。

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QFP基板             DIP品を無理やり載せた

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表側には影響なし

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結果としてケースの裏側にマイコンの穴

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基板も9月16日バージョンから10月1日バージョンへと変遷し完成

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初代との比較 今回はケース付き  基板の色で3色用意

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K3NGキーヤーの豊富な機能をリストシール化

久しぶりのFRISKサイズキーヤーの改定となりました。小さい基板ですけど、小さいがゆえに意外と苦戦したかな?!と思っています。
キータッチも、世界で使用されているソフトですから、気に入っていただける方も多いかと思います。
IAMBICもA、B選択できますし。
トレーニングモードも搭載されていますし。(よくわからないのもありますが)
チューニングモードも便利です。
ブザーですが、サイドトーンの周波数調整ができるのも面白いです。

コソッと頒布してます。ご興味があれば、pocke.tech へ!





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2021年10月13日

カーボンファイバー釣竿アンテナ

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釣竿アンテナというと、グラスファイバー製を使用するのが定番でしたが、最近Twitterでカーボンファイバー製の釣竿を使ったアンテナの投稿をよく見かけるようになりました。
グラスファイバー製の場合は電線を這わせて使用するわけですが、カーボン製の場合は導電性があるので使えないということが言われていました。
最近の投稿によると、この導電性をそのまま活かして電線を這わせることなく釣竿そのものに電波をのせて使おうというものです。
報告によると結構使えるということなので興味を持っていました。
しかし、どんな釣竿なのかというような情報があまりなくて躊躇していましたが、安いのを買ってやってみようと思い立ち実験してみました。
サイト検索すると、意外と昔からエレメントとして使用されておられる局長さんが結構いらっしゃったということも後押しになりました。
細かい調整をしたわけではなく、仮設してオートアンテナチューナーAH4を接続してチューニングし、50W FT8 で運用してみました。

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ベルトクランパーで縛っただけ!
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釣竿の最下段と、2段目以上は絶縁されており、最下段を固定した。
下から2段目のロッドの下方部の塗装をカッターで削り取り、AH4に接続する電線を取り付けたクリップで咥えて接続した。
クリップ側は磨くなどの加工は一切していません。100均で買ったものそのままです。

結果は上々で、何ら問題なく16mほどのロングワイヤーと同じように飛んでくれました。
意識してなかったのでオセアニアとQSOしていませんが、北米南米アジア欧州アフリカ南極と交信できました。VKはいつもできているので、交信していればWAC+南極ができていたことになります。
運用は、7MHzと10MHz 時間は5時間ほどです。
そこそこチューニングができた範囲では、3.5MHz〜50MHzでした。
カーボンファイバー釣竿アンテナの特徴は、電線を這わせないので軽くできるということと、最先端のロッドまで活用できるということです。使用した釣竿の先端は、0.8mmしかありません。
100均で買ったベルトクランパーで縛っただけの簡単設置で、使えるアンテナの実験ができました。
購入したカーボンファイバー製釣竿は、写真の通りです。
長さ 7.2m、先端 0.8mm、手元 約23mm、
重量 約260g(実測)、仕舞寸法 72cm
名称 小継 硬調 メーカー JINKING?(中国製)
購入価格 4299円(AMAZON)

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写真に見えるコイルは関係ありません。5mのロッドアンテナを使用した1.9MHz用バーチカルのコイル部にベルトクランパーで仮設したため、コイルが写っています。
このコイルを使えば1.9Mhzも使えるようになると思います。

非常に短時間で仮設、試験運用してみましたが結構使えるアンテナだと思いました。
ロッドアンテナと違い、おそらく数Kgの魚も吊り上げる強度はあると思いますので、固定さえしっかりすれば少々の風にも十分に耐えることができると思います。竿自体はとても軽いので移動運用にも活用できるものと思います。(チューナーは別途考えないとだめですが)
10m長の竿もあるようなので、安いのがあったら調達してみたいと思います。





posted by ja6irk at 15:53| Comment(2) | TrackBack(0) | QRP-HomeBrew